いとうせいこう氏

いとうせいこう氏

作家・クリエイター

令和の前から令和っぽい
トビムシ。
緑のサバイバルの時代に、
地域特有のソリューションを
与え続けてほしい。

自律は個性だから、
一般解化してはいけない。

「トビムシは難しい問題にソリューションを与える。分散し、つながり、出口を探る。
私はトビムシの鮮やかな発想と行動力に敬意を表する。すぱっと解決してしまえば、人はそれがいかに難しい問題だったか忘れるものだ。忘れるくらい見事なアイデアを、私もともに考えていきます。」
これは9年前にトビムシに贈った言葉で、その考えはいまも変わっていない。
トビムシの素晴らしいところは、その現場に特有の問題としてとらえてソリューションを与えるっていうところ。
だいたい、みんな一般的解答を当てはめようとするから、齟齬が起きちゃう。トビムシは地域の状況をみて、一から解決を考える。そうすると、意外と一般的解答よりも、早く、正解にたどり着ける。それはコロンブスの卵的で、そこがトビムシ面白いなと思ってる。

そして、トビムシならぬ「飛び石」的に、ソリューションがいろんなところに連鎖していっている。つまり、その分解決の手段が発明されていくわけで、そうすると次は、簡単になっていくはずなんですよ。AとBを組み合わせればいいんじゃないかとか。「やりよう」が増えていく。
だから、一般解化してはいけないんだ。自律(自立)するというのは個性化することなんだよ。個性があるからこそ自律できるのであって。
一般的な方法を当てはめようとするのは他律であって、自律は不可能なんだよ。多様性があって、その中でそれぞれの人が活きる。人間社会ではあたりまえのことで、地域も一緒だと思う。

世界はもう変わってるんだ。

去年、パリでカルティエの美術館に行ったら植物展みたいなのをやってたんですよ。それがすごい人気で。関連図書のコーナーにはものすごい量の本があってその中に、『オーバーストーリー』って本が置いてあって、ひっきりなしにそれをいろんな人が見てるのよ。その小説ははっきりと「動物愛護だけではない。植物も動物も一緒で、人間だけが頭を下げて生きていかなきゃいけない」って言っているわけ。植物を救わないといけないんだっていうメッセージを、照れることなく、前面に出している。
そこまでヨーロッパは追い詰められてるんだな、というのがよくわかった。これは本気で転換しないと人類が滅亡するっていう気持ちがものすごく強いんだなと。そこで、世界は変わらなきゃいけないし、変わっているっていう実感がものすごいあったの。 世界はもう変わってるんだ。人間中心主義、動物中心主義もやめて、全生物中心主義。拡散主義かわからないけれども。そこに目が行ってない人はもうだめ。話にならないと思う。

そういう意味でも、僕ら・・・、僕らっていうかトビムシが考えてきたソリューションが、切実なものとなってここで結実しなきゃいけないし、するでしょう、と思っている。 だから、これからはこうすべきだっていうスタイルの提唱、共産党宣言みたいなものを出さなきゃいけない。そんなこと言ってると、公安に目をつけられるかもしれないけど。「君たちは赤だな」「いや、赤じゃありません、緑です」なんて言って(笑)。
でも、トビムシは10年生き残ったどころか、各地域に色んなものをつくりあげて、モデルケースをつくっているわけでしょ。その実地でやってきたことが説得力になるんじゃないかな。

本当に世界は変わらなきゃいけないから、そのとば口をつくりたいわけよ、俺は。
いまは各地で革命軍があっちこっちでやってるようにみえるけど、上手にそれをつなぐことはできないかなと考えてる。トビムシがこれからやるべき仕事っていうのは、たくさんの困難な場所に具体的なソリューションを与え続けること。それを上手につないでいって運動にしていくこと。
これは世界的な問題なんだ。日本だけの問題じゃない。緑革命宣言とでも名付けてさ。グリーンレボリューション。いや、もうグリーンサバイバルだよね。このままだと確実に死が訪れるんだから。

令和の前から令和っぽかったんだから、今こそ。

僕は年号でものを考えてきたわけじゃないけど、最近、「令和っぽい」って、言葉を使う。若い子が良く言うんだよ。「令和っぽいね」って。
例えば、女性の人権に敏感であるとか。鈍感だと、「令和っぽくない」「昭和・平成っぽい」って言われる。ファッション業界も、新しいモデルの服を恥じる傾向がどんどん出てきているらしく、お直ししてずっと使ってるとか、3年前のコレクションをまだ着てる方がイケてるみたいになってきている。そういうのが、令和っぽいな、って思う。
意識が変わってきているんだよ。人間も動物だから、本当の滅亡の前に身を翻そう、っていう気持ちがあるんじゃないかな。
そういう意味では、トビムシなんか、令和がはじまる前から令和っぽいね。令和っぽくないものを脱却していかないと僕らも救われない社会がきたからね。イケてるよ。トビムシ。
だから、いまこそもっとプレゼンした方がいいよ。いままで消費の方に行ってた人たちが立ちどまっている今こそ。
こういうソリューションがありますよって。
こういう森との付き合い方ができますよって。
いまからでもなんとか森と、植物と一緒に、新しい世界をつくっていきましょうって。

2020年6月

竹本より

いとうせいこうさんとの初めての出会いは、2011年、東京の森を考えるシンポジウムで、他の登壇者の林業関係者が暗い顔をする中、二人で自由闊達に意見交換をさせてもらった。終了後、せいこうさんから声をかけてもらい、とてもビックリして。正直、連絡をもらえるとは思っていなかったところに、その夜早速twitterで僕のことを紹介してくれて、そしてすぐにメールをくれて、そしてすぐにラジオ番組に呼んでくれて。以降、せいこうさんは、多忙の身(どころではない)にかかわらず、年に数回、僕、僕たちの話しに、真摯に耳を傾けてくれている。このインタビューの際も、ふたり、去年の同じ時期に同じ本(『植物の生の哲学』)を読み、同じ心象を抱いていたことに驚いたり。
「トビムシは難しい問題にソリューションを与える。分散し、つながり、出口を探る。私はトビムシの鮮やかな発想と行動力に敬意を表する。すぱっと解決してしまえば、人はそれがいかに難しい問題だったか忘れるものだ。忘れるくらい見事なアイデアを、私もともに考えていきます。」
上記創業間もなくいただいたメッセージのとおり、いつも「ともに考えてい」てくれて、本当にありがとうございます。

藻谷浩介氏
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塚本由晴氏
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